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なお脆弱なマンションの住まいとしての持続性─2018年マンション総合調査の結果から

増える空室と所有者不明住戸

滋賀県野洲市が空家対策特別措置法(以下、空家法)に基づき、廃墟化したマンションの強制解体を決めるなど、老朽マンションをめぐる問題が急速にクローズアップされている。筆者が『限界マンション』を著したのは2015年のことで、建物の老朽化と区分所有者の高齢化という二つの老いにより、今後、管理不全になるマンションが急増することに警鐘を鳴らした。しかし、事態はさらに悪化し、「限界マンション」を超えた「廃墟マンション」が出現するようになっている。

そうした折、5年に1回調査が行われる国土交通省「マンション総合調査」の2018年分の結果が4月26日に発表された。その結果によれば、管理組合の機能低下をもたらす可能性が高い空室化の進展は、5年前の2013年調査と比較すると、完成年次が古いマンションで顕著になっている。

現在、所有者不明土地の増加が社会問題化しているが、マンションについても将来、増えていく可能性がある。今回調査で、所在不明・連絡先不通の住戸の割合が新規項目として追加され、そうした住戸のあるマンションの割合は全体の3.9%であった。うち総戸数に対するそうした住戸の割合が20%超のマンションは全体の2.2%であった。古いマンションほど不明率が高く、すでに一部マンションでは、不明問題が深刻化している。不明増加がもたらす問題としては、管理不全を招くほか、多数決による議決が難しくなることなどがあげられる。

一方で、管理費・修繕積立金の滞納状況は、古いマンションで改善が見られるなど良い点もある。また、マンションの劣化を食い止めるためには、維持修繕の原資となる積立金を十分に確保しておく必要があるが、計画期間25年以上の長期修繕計画に基づいて修繕積立金の額を設定しているマンションの割合は、2013年の46.0%から2018年には53.6%に上昇し、この点も改善した。

 

長期修繕計画と修繕積立金の質

しかし、長期修繕計画と修繕積立金の質を問う、今回調査から追加された調査項目の結果を見ると、その中身は良くない。長期修繕計画の見直しは「5年を目安に定期的に見直している」割合が56.3%と半数を超えた。しかし、「修繕工事実施直前に見直し」12.5%、「修繕工事実施直後に見直し」10.1%と、泥縄的なタイミングでの見直しに留まっているケースも少なくなく、見直しを行っていないマンションも5.7%あった。

修繕積立金の積立方式は、「段階増額積立方式」が43.4%、「均等積立方式」が41.4%と拮抗した。段階方式は販売時に低額のため不動産会社が打ち出しやすいが、その後の値上げで合意を得る必要があり、将来負担も大きくなる。これに対し、将来にわたり同額を払い続ける均等積立方式は、値上げの度に議決を取らずに済み、当初から十分な額を確保できる。近年、均等方式が増えているとはいえ、まだ半数に満たない。

計画上の修繕積立金の積立額と実際の積立額の差については、不足しているマンションが34.8%に達した。そもそも計画上の積立額が十分なものとは限らないが、計画対比で不足していれば、維持管理に支障を来たすことになる。

 

永住志向と最後の看取り

マンションの老朽化問題が深刻化する一方で、マンションの永住志向は前回調査の52.4%から10ポイント以上上昇して、62.8%となった。永住志向が高まっているにも関わらず、マンションの住まいとしての持続性はなお脆弱といわざるを得ない。

今後は少なくとも60年の長期修繕計画策定を義務付け、良い状態を保ったままマンションを使い切ることを徹底させる必要がある。使い切った後、建て替えや売却が困難な場合には、戸建てと同様、解体しなければ危険な状態になりかねない現実を見据え、解体資金の積み立てを義務付ける措置も必要になってこよう。いわば、マンションの看取りに備えた資金である。

これまでマンションを自主解体した例としては、越後湯沢のリゾートマンションの例(1975年築、2018年解体、30戸)があるが、たまたま積み上がっていた修繕積立金3,500万円を解体費用に充当できたことによる。現行法制では、区分所有権解消(マンションの解散)は、被災マンションや耐震不足以外では、全員一致が必要であり、このケースでは推進役のリーダーの尽力により議決が可能になった。今後は区分所有権解消のハードルを、建て替えと同様、5分の4に下げる必要性がある。

一方、冒頭に述べた野洲市のマンション(1972年築、9戸)は議決できず、自主解体できなかったため、代執行が必要になった。解体費用は請求しても、全額回収できるかどうかはわからない。空家法は、共同住宅や長屋建ての場合、全室空室にならなければ適用できず、このケースでは全室が空室だったため適用できた。今後は居住者がいても危険な状態に陥った場合、強制措置を発動できるマンション版の空家法が必要になるだろう。

今後はこのような制度見直しが必要になるが、管理組合自身が老朽化問題に立ち向かっていく必要もある。今回調査で、建て替えや修繕・改修の方向性が出た管理組合は21.9%に過ぎず、議論を行ったが方向性が出ていない管理組合が16.6%、議論を行っていない管理組合が56.3%であった。新しいマンションほど議論を行っていない割合が高くなっており、それは無理もないが、できるだけ早い段階から議論を始めることが望ましい。

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