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管理不全の空き家に対する固定資産税の優遇が解除へ

緩い税制上のペナルティ

空家対策特別措置法(以下、空家法)の今国会での改正を目指し、社会資本整備審議会住宅宅地分科会空き家対策小委員会の取りまとめ案が1月31日に公表された。この中で、固定資産税の住宅用地特例を解除できる条件の緩和が盛り込まれている。

住宅用地特例は「居住の用」に供する住宅が建っている場合、敷地に対する固定資産税が軽減される措置である。住宅が建っている場合とそうでない場合では、建っている場合の方が敷地に対する課税が最大6分の1に軽減される。住宅を持った際の税負担を緩和する趣旨で1973年度に設けられた措置であったが、この措置があるためたとえ住めないような状態になったとしても、税負担増を免れるため取り壊さずに放置するという弊害が生じていた。

そこで、2015年に施行された空家法では、市区町村が倒壊の恐れなどがある空き家を特定空家等に認定し、所有者に対し、助言・指導、勧告、命令、代執行の措置を取ることができるようになった。そして、特定空家等が助言・指導に従わず、勧告を受けたまま1月1日を迎えると、住宅用地特例が解除されることになった。空家法に基づく措置と課税強化という2つのプレッシャーによって、所有者の適正管理や売却など早期流動化を促そうという狙いであった。

これらの措置の効果は、一定程度はあったと考えられるが、これでも緩いという意見はあった。所有する空き家が特定空家等に認定されたとしても、勧告を受けない限り、課税は強化されないからである。つまりは勧告にならない程度に管理していれば、税制上のペナルティはないということになる。

本来の厳格適用へ

これに対し、今回の小委員会取りまとめ案では、特定空家等と認定されるレベルまで悪化する前の段階で、住宅用地特例が解除できるようにすることが盛り込まれた。これにより、所有者へのプレッシャーを高め、より早期の対応を促そうというものである。

今後の法改正でこうした措置がとられることになるが、そもそも住宅用地特例を厳格適用すれば、建っていても住めないようなものは、本来、特例は適用できないはずだった。この点は空家法施行時の2015年に総務省が出した通知で、構造上住宅と認められない状態にある場合、居住の用に供するための必要な管理を怠っている場合などについて特例が適用されないことが確認されていた。

厳格に適用されてこなかったのは、税当局が本来、徴税すべき税金を徴収してこなかったことになるが、厳格適用するためには実態を調査する必要があったこと、また、線引きが難しかったことによる。こうした状態に歯止めをかけたのが空家法と連動した特例解除の措置であり、特定空家等で勧告という条件で特例が解除されることになった。ただ、空家法と連動させた措置が設けられたことは、税当局にとってはたとえもっと早く解除したいと思っても、この条件を満たさなければ解除しにくい弊害も生まれていた。

これに対し、本来のあり方とするため、市区町村が独自の判断で厳格適用に踏み切った例もある。京都市や神戸市、尼崎市などがそれで、京都市の場合、2019年度から、特定空家等に至らなくても、主要構造部(屋根、外壁、基礎等)が著しい管理不全状態にある場合、および今後居住の用に供される見込みがないと認められる場合について、特例解除に踏み切った。所有者責任を早期に意識してもらうためであるが、今後はこうした措置が、全国で行われることになる。

空き家所有者の選択肢

その効果であるが、空き家所有者にとっては、より早期からの適正管理を意識しなければならなくなり、その意味で管理コストは増す。管理コスト増と、解体した場合の税負担増を考えると、早期売却を考える所有者が増える可能性がある。しかし売却できるのは、空き家やその土地に需要がある場合で、需要がない地域では手放すことは困難である。

その場合、所有者は、(A)空き家を解体せず持ち続ける場合のコストと、(B)解体して更地として持ち続ける場合のコスト(解体費用+税負担の増分)とを比較して、どちらが安いかの選択となる。これに対しこれまで市区町村では、(B)の選択肢を取りやすくするため、解体した場合の固定資産税の増分を一定期間軽減する措置をとっている例もある。福岡県豊前市、新潟県見附市などがその例で、豊前市の場合は、10年間の軽減を行っている。

なお、(A)のコストには、万が一空き家が倒壊するなどして周囲に損害を与えた場合の賠償責任のリスクも考えるべきで、そこまで考えれば、(B)の方がはるかに安く済むと考えることも可能である。

解体した場合の税負担軽減を行っている地域は、人口減少などで空き家やその土地に対する需要が少ない地域と見ることができる。すなわち、売却困難で、更地にしても持ち続けなければならないという前提では、税負担軽減が政策的に必要と考えられる地域である。これに対し、市区町村の判断で厳格適用に踏み切った例は、京都市でなど都市部が多い。都市部では密集しているため周囲に与える悪影響も相対的に大きい。こうした地域では所有者にプレッシャーをかけ、適正管理や早期売却を促すことが政策的に重要と考えられていることになる。

したがって、住宅用地特例の適用を厳格化するにしても、地方などでは更地にした場合の税負担軽減の措置も必要になると考えられる。この点について、小委員会取りまとめ案では、地域の実情に応じ、一定の空き家を取り壊した場合の固定資産税の税負担軽減が条例などで可能であることを、市区町村に周知する必要性を指摘しており、目配りがなされている。今後予定される法改正では、空き家対策で一部の市区町村が先進的に行ってきた措置を全国に広められることになり、空き家対策を一歩進めるものとして評価できる。

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