政府債務はいかに解消されるか
2020年のピーク時に2.5倍超に達した日本の政府債務比率(=政府債務残高/名目GDP)が、2020年をピークに低下に向かっている(2025年235%、IMF推計値)。これは日本経済がデフレからインフレに転換したことで、分母である名目GDPが大きく増加したことによる。
政府債務が累増した場合、それがどのように解消されるかについては、理論的には次のように考えることができる。
政府は単年度の税収で財政支出を賄えない場合、国債発行によって資金を調達する。この時、国債は民間が引き受けるか中央銀行が購入するかに分けられる。中央銀行が購入した場合には、それによってマネー残高が増加することになる。
そして、政府は民間から借りたお金をいずれ返済しなければならない。政府は将来にわたる財政余剰(税収―歳出)を財源として国債償還を実施するが、中央銀行が民間から国債を購入しマネーを供給する場合は、その分、財政余剰を財源とした国債の償還負担は減少する。この関係式は、次のように示される。
民間部門保有の国債残高
=将来にわたる財政余剰の現在価値+将来にわたるマネー残高の変化の現在価値
これを物価水準で実質化すると次のようになる。
民間部門保有の国債残高/物価水準
=将来にわたる財政余剰の現在価値(実質値)
+将来にわたるマネー残高の変化の現在価値(実質値)
政府がデフォルトしない限り、この式は事後的には必ず成立しなければならない。その際、この式がどのように満たされるかは、財政当局と中央銀行の行動パターンによって変わってくる。まず、中央銀行が独立にマネーの供給量を決定し、財政当局が受動的に財政余剰を調整するケースでは、財政当局がこの式を満たすように行動する必要がある。すなわち、政府債務の解消は、財政当局が歳出削減や増税を通じて財政余剰を調整することによって責任を持つことになる。
次に、財政当局が独立に財政余剰を決定し、中央銀行が受動的にマネーを供給する場合には、中央銀行がこの式を満たすように行動する必要がある。すなわち、政府債務の解消は、中央銀行がマネーを供給することによって責任を持つことになる。この時、マネーの供給増加に伴って物価は上昇する。物価が上昇すれば、債務の実質値は低下する。
政府債務解消の歴史的事例
歴史的に見ると、累増した政府債務が、インフレの著しい進展で解消されたケースとしては、第一次大戦後のドイツ、第二次大戦後の日本がある。第一次大戦後のドイツは、戦争賠償金という財政負担の発生を通貨発行によってファイナンスし、また、第二次大戦後の日本は財政支出を中央銀行の国債引き受けによってファイナンスした。この二つの事例では、通貨供給量の増加によって財政支出をファイナンスし、結果としてそれがハイパーインフレを引き起こし、政府債務が解消するに至った。
これに対し、中央銀行が国債を買い支え、政府債務のソフトランディングを図ったケースとして、第二次大戦後のアメリカがある。当時は中央銀行が金融政策を独立に運営することができなくなり、国債価格支持政策を余儀なくされた。この時、財政当局はもちろん財政支出抑制など財政再建を図ったが、それを円滑なものにするために中央銀行の協力を必要としていた。結果として起こった緩やかなインフレが、政府債務の解消に寄与した。
これら事例は、中央銀行が通貨発行ないし国債購入による通貨供給量の増加によって、政府債務を引き受けその解消に一定の役割を果たしたという点で共通している。通貨の信認を維持したまま、巨額の政府債務をソフトランディングできたのがアメリカであり、通貨の信認が完全に失われハイパーインフレが起こったのがドイツと日本であった。
高市政権の財政スタンス
翻って現在の状況を見ると、黒田日銀総裁の下で異次元緩和に踏み切って国債を大量購入する過程で、為替は円安に向かった。結果としてデフレからインフレに転換し、政府債務比率の上昇に歯止めがかった。しかしその間、財政当局はプライマリーバランス黒字化目標により財政再建を目指す姿勢は維持してきた。これはアメリカの状況に似ている。
しかし、高市政権になって財政規律の弛緩が懸念されるようになっている。「責任ある積極財政」の考え方の下、機動的な財政出動を可能にするため、高市首相は、プライマリーバランスの目標達成状況の確認は単年度ではなく数年度単位で行うことを言明した。
拡張的な財政スタンス明示に伴い、国債が売られ金利が上昇した。そうでなくとも日本銀行は先行きも金利引き上げを目指しており、利払い費は膨らんでいく局面に入っている。一方で、海外投資家からは日本の財政規律の喪失を懸念した円売りも発生した。過度な円安は高インフレにつながりかねない。
政府債務のソフトランディング路線は微妙なバランスの下で成り立っており、その継続のためには、一定の財政規律の維持は高市政権でも不可欠になっていると言える。






