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神戸市のタワマン施策─空室課税、さらには解体費用の確保も

タワマン施策の経緯

神戸市はかねてから、中心部にタワーマンションが立地し都心居住が進むことで商業業務機能が損なわれ、都市機能のバランスが崩れることに危機感を持ち、JR三ノ宮駅周辺を「都心機能誘導地区」として、2020年7月から住宅新築を禁じてきた。併せて周辺の都心エリアでは、1000平方メートル以上の敷地の住宅容積率の上限を400%に制限した。

一方で既存のタワマンが抱える課題について2025年1月に有識者会議は、投資目的の所有が増えていることで空室が増え、このままの状態ではやがて修繕や解体の合意形成が困難になり、最悪、廃墟化しかねないとの懸念から、空室抑制のため、空室に課税することなどを提言した。まずは都心機能誘導地区内のタワマン限定で検討すべきとし、次いで大規模マンションへの必要性も考えるべきとした。制度設計については5月に検討会を発足させ、これまでに2回の会合を開催し、年度内に方針を示す予定である。

神戸市内のタワマンでは、住民登録がない部屋の割合は階層が高まるほど多く、40階以上では34%に達した。さらに40階以上では所有者のうち58%が居住していなかった。階層が高いほど、投資目的所有が多いことが示唆される。

空室課税の課題

空室への課税は法定外(自治体独自の税)の形態となるが、主要な課題としては次の3点が挙げられる。第一にどういう状態を持って空室と見なすかという点、第二に法定外税が二重課税にならないかという点、第三は期待した効果が得られるかという点である。

第一については、京都市が2029年度に導入する「非居住住宅利活用促進税」の場合、非居住状態かどうかは、住民票をおいていない住宅所有者への文書調査や現地調査によって判断する。賃貸・売却予定のものは、課税を免除する措置がある(1年過ぎても成約しなかった場合は免除せず)。京都市のこの法定外税は、住宅価格高騰を背景に子育て層が市外に流出していることに対し、空き家が市場に放出される効果を狙ったものである。空室状態の把握については神戸市の第1回検討会では、水道メーターを確認する手立ても提案された。

第二については、課税標準が別であれば二重課税には当たらないが、課税標準が同じだとしても著しく過重な負担でなければ、不当な二重課税ではないという考え方になる(総務大臣の法定外税への同意要件)。京都市の場合、固定資産税の半分程度になるといい、この程度であれば同意を得られている実績がある。

第三は、課税によって投資目的所有に影響を与えられるかどうかである。全日本不動産協会兵庫県本部の会員へのアンケート調査(第2回検討会資料)では、課税の影響は、「空室・空き家の流通が増し活性化する」26%、「不動産市場が冷え込む」26%、「影響はない」28%と分かれていた。

過重でないとしても負担が増すことは、利回り減殺という点で投資価値を損なう。対象エリアでの投資に魅力を感じなくなり売却される可能性、また、空室を避けるための賃貸化促進につながる可能性がある。

投資目的所有で区分所有者の常時不在が多ければ、管理組合が機能しにくい状態となる。投資目的の区分所有者の場合、費用負担は避け、利回りを追求する意見に賛成する傾向にあり(2023年2月実施の国土交通省アンケート調査)、修繕積立金の値上げが必要になったとしても容易に同意しない可能性もある。

課税によって投資目的の所有が減り、区分所有者が適正な維持管理を行い、寿命が尽きたらきちんと終わらせるということにも向き合うようになれば、最悪、廃墟化する懸念は低減する。むろん、課税単独でここまでの効果は得られないかもしれないが、有識者会議では各種施策のパッケージを提案していた。まずはエリア・対象限定の課税から始めるにしても、マンションの持続性に悪影響を与える投資目的の所有に対し、ノーのメッセージをつきつけることができれば、全国に及ぼす影響は小さくないと思われる。

解体費用確保のあり方

なお、神戸市が想定する政策パッケージのうち、タワマンの終末期により直接的な対応として重要なのは、解体コストの負担である。これについては国も検討の必要性を認識しており(国土交通省「今後のマンション政策のあり方に関する検討会とりまとめ」2023年)、一般的な長期修繕計画の20~30年の期間では解体は視野には入らないため、超長期(70~100年)の修繕計画策定とそれに基づく解体費用積み立てが、いずれはガイドラインの中に盛り込まれる可能性もある。

神戸市は解体コスト負担の問題をタワマン施策の中で指摘しているが、これはマンション一般に必要な施策と考えられ、国はそのように想定している。マンション終末期において建て替えも解体も売却もできず、危険な状態になって代執行しなければならない事態が、2020年に滋賀県野洲市で出現したことで、そのような認識が急速に高まった。

神戸市では中央区にあるタワマンのうち、都心機能誘導地区内にある19棟の解体費用は概算で152億円程度と試算しており、将来的に解体がなされず廃墟化した場合、代執行で解体したとしても、費用を回収することは不可能に近いと見ている。

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