オピニオン

コロナ禍とデジタル化の進展

一気に進むデジタル化とその効果

コロナ禍によってできなくなったリアルな活動の代わりとして、バーチャルな活動が様々な面で急速に台頭している。仕事面ではテレワークやリモート接客、教育面ではオンライン授業、コミュニケーション面ではオンライン飲み会やオンラインサークル、芸術面ではオンライン映画制作やオンライン句会といった具合である。

テレワークがその典型であるが、従来からツールは持っていても使っていなかったものが、緊急事態に直面して一気に普及した。これにより、これまでリアルの世界のやり取りでなければと思っていた会議が、オンラインやチャットで十分だったりするなど、バーチャルで代替できることが認識された。オンライン授業も同じで、受けてみたら、授業自体は教室にいる感覚とさほど変わらないなどの感想も出ている。

その際、バーチャルな活動を最大限生かすためのノウハウが問われるようになっている。テレワークの会議では、対面でないからこそ、事前に資料を共有するなど効率的な運営を意識することの必要性などが認識されつつある。また、コーチが在宅で練習場の選手を指導するリモート練習の仕組みを導入したプロ野球団では、すぐに質問できる環境にはないため、課題や目標を決め、それをどのように達成できたかなどを常に意識し、時間を大切にするようになった事例もある。

むしろ、バーチャルにはバーチャルなりの優れた特性があることが分かり、その場合、リアルが果たす役割とは何なのかが問われる場面も出てきている。仕事面では、顧客との打ち合わせでこれまでもビデオ会議システムは使ってきたが、今後は、現場・現物を重視して実施してきた出荷前の立ち合い検収さえもデジタルでできるといったメーカーの声もある。これからは、ほとんどのことはデジテルででき、現場に行ったり人に会ったりするのは、最後の一部分に限られていくのかもしれない。

アパレル販売では、遠隔で顧客に接客するサービスも登場している。顧客は通販サイトから気になる商品を選択し、チャットや動画で質問でき、販売員は在宅でこれに対応する。この場合は、もはやリアルな現場は不要である。不動産販売の場合は、最後の現場での確認は必要と考えられるが、それ以前の部分はビデオ通話やVR内覧などを活用すれば、かなりの部分、デジタル化できると思われる。

リアルとバーチャルの適切な役割分担、あるいは相乗効果により、新たな価値が創出される期待も出てきている。リモートワークで映画制作を試みた事例では、ロケをしたり集まったりせず、離れた場所からインターネットを通じて俳優に出演してもらった。監督は、限定的な世界を逆手に取ることで、観客を効果的に引きずり込めるのではと考えたという。

こうしてコロナの渦中で手に入れた新たな技術や知見、ノウハウは、日常が戻った時にも活かせるはずである。古来、新たな技術革新は、何らかの制限がある中で生まれてくることが少なくない。コロナ禍でリアルな接触が難しい状況が今後もしばらく続くとなると、様々な技術革新や新たな試みを促す契機になるかもしれない。

一方、バーチャルな活動には、リアルの世界での体験が困難な場合や、バーチャルの世界に触れることでリアルの世界へと誘う目的のものもある。例えば、VR技術を使った観光は、従来、遠出や外出が困難な人の需要を狙ったものであったが、自由な外出が制限される中では、需要がより一般化する可能性が出てきている。

デジタル化のマイナス面

しかし、バーチャル化を推し進めることのマイナス面もある。その典型は、一人で仕事したり、授業を受けたりする際に感じる孤独感である。これに対し仕事の場合は、オンラインランチやオンライン飲み会を開催したり、オンラインルームを設置して雑談が気軽にできるようにしたりするなどの取り組みがなされている。教育面でも、チャットで意見交換するなど、一体感を感じられる工夫がなされている。これについては、大人数のリアルの場では発言しにくいが、チャットでは意見を言いやすいなどのメリットも出ている。

バーチャルな活動では孤独感を感じる場面もあるが、現状でリアルな活動が全くできないことの代替として行われている場合は、逆に孤独感を癒す機能を発揮しているケースもある。リアルで集まれないサークルの例会をオンラインで開催したり(オンラインサークル)、サッカーのサポーター同士が、試合が開催されない中、オンライン飲み会で交流を深めたりする例である。政府が呼びかけたオンライン帰省は、リアルならば年数回しかできないところが、バーチャルならば何度でもできるというメリットもある。

今のところは、デジタル化の進展によるマイナス面はあまり意識されていない。将来的には、例えば、デジタル化の進展に伴う監視技術の発達により、個人の自由が阻害される懸念を指摘する識者は少なくない。しかし日本では、民主社会に対する信頼感が強いからか、そのような危惧を抱く人は一般には多くない。

以上のように、現状で、デジタル化の進展は総じてプラスの作用をもたらしている。コロナ禍は、デジタル技術を積極的に活用するきっかけにはなったが、これはコロナ禍がなくても長期的には進展していたことでもある。今後もうまく活用されていけば、社会や生活を豊かにしていくと考えられる。

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