タワマンの不都合な真実
タワーマンション供給が引き続き増加している。不動産経済研究所によると、タワーマンション(調査では超高層マンションと呼称。20階建て以上のもの)の供給戸数は、2020年にはやや減少したものの、2021年には再び増加に転じ約1.5万戸に達した。その後も増加が続き、2023年には2009年以来2万戸を突破する見通しである。都心部や湾岸エリアの大規模開発が控えているほか、近年は地方都市でのタワマン開発も増えている。
タワマンに関しては、立地やハイグレードな設備の魅力、値崩れしにくいと考えられている点、投資対象としての魅力などから、2000年代以降、供給が大幅に増加した。供給が大幅に増えた時期のタワマンが築15年程度と、順次第1回目の大規模修繕が必要になる時期に近づいたことで、タワマンが適時適切な修繕実施により、先行きも資産価値を保っていけるかどうかが、ここ数年注目されてきた。そうした中、タワマンの管理、維持修繕の難しさを強調し、終末期に廃墟化は不可避との「タワマン廃墟論」が一部で語られるようになった。
しかし、タワマンについて語られる管理、維持修繕の難しさは、タワマン固有のものではなく、分譲マンション全般に通じることである。区分所有であるが故の合意形成の難しさ、大規模建築物であるため修繕に巨額の費用を要すること、仮に2回目、3回目の大規模修繕ができたとしてもその先も適切な維持修繕を行う費用や気力が区分所有者に残されているのという点、維持修繕を断念した場合に建て替えできるのかという点、維持修繕も建て替えもできない場合に区分所有者が責任を持って解体(区分所有権解消)ができるのかという点など、現在一般のマンションが直面している課題は、タワマンもいずれ直面する課題である。
タワマンの場合は、一般のマンションに比べ、これらの問題をクリアするのが格段に困難になるという違いがある。タワマンでは500戸を超えることは珍しくないが、区分所有者が増えれば増えるほど、当然、合意形成は難しくなる。また、一時的住まいや投資対象と考える区分所有者が多くなれば、管理や維持修繕への関心は薄くなりがちである。
大規模修繕の費用は規模の経済が働き、戸数が多くなれば一戸当たりの負担は小さくなる傾向があるが、タワマンの場合はその特殊な形状や固有かつ豪華な設備などが邪魔して規模の経済が働かなくなり、一戸当たりの負担は割高となる。国土交通省によると、大規模修繕工事の金額は一戸たりでは3階建て以下が最も高く、3階を上回るとそれより安くなるが、20階以上では4~19階建てを上回るようになる(図)。管理費も同様の傾向がある。
さらに、タワマンの建て替えについては、一般の多くのマンションが使っている都合の良い建て替えスキームを活用できる見込みはない。すなわち、容積率や敷地の余剰を活用して建て替え後により多くの住戸を造り、余剰部分を売却することで建て替え費用の足しにする方法である。タワマンはそもそも容積率や敷地いっぱいに造られており、建て替え時に余剰住戸を生み出すことは難しい。自主的な建て替えはほぼ不可能で、建て替えられるとすれば、そのエリアが価値を持ち続け、再開発などの対象になった場合であろう。
維持修繕や建て替えができず、老朽化して危険な状態になった場合、区分所有者には解体の責任が生じるが、わざわざ費用がかかる解体の合意もできるはずはなく、合意ができるとすれば解体後の跡地が売れ、解体費用を回収できる見込みがある場合と考えられる。
このようにタワマンは、一般のマンションに比べ、より多くの困難に直面する。区分所有者がそうした困難に挑み続け、最後まで責任を持つことができなければ、老朽化した物件がとり残されることになり、それが危険な状態になった場合、行政が代執行などの形でその処理に乗り出さざるを得なくなる。これはすでに一般のマンションで現実化したことであり、タワマンが同じ状況になった場合、行政の負担はより大きくなる。
このように考えると、タワマンは一般のマンションや戸建てに比べ、所有者が責任を果たさない場合、終末期に行政がより多くの負担を負わざるを得なくなるリスクが高く、そうしたリスクを考慮すれば、行政にとって本来は歓迎すべき対象とはいえない。にも関わらず多くの自治体は、タワマン建設が当座の大きな人口吸引力となるため、立地を歓迎してきた。
中古市場での競争力を保てるか
今のところタワマン人気は衰えず、その資産価値も上昇しこそすれ、崩れるような動きは見られていない。一般のマンションが終末期の問題に目をつぶっていたように、タワマンも終末期の問題はまだ遠い将来のことと目をつぶっている。タワマン廃墟論はそれを誇張した論説であったが、供給側、需要側もまだそれをリアリティのある問題とは捉えていない。
現時点でタワマンが直面している課題は、それより前の段階の管理や維持修繕の問題である。その点ではまずは、永住するにしろ、一時的な住まいや投資対象として保有するにしろ、資産価値を維持する活動に取り組むことが利益になるというような共通認識を形成していく必要がある。どのような立場の区分所有者にとっても、将来にわたって資産価値を維持することが自らの利益に直結することが理解できれば、管理や維持修繕に相応のお金をかけていくことを厭わなくなるはずである。その結果として、中古市場で競争力を保つことができれば、永住志向の人にとっては資産価値を次世代に引き継ぐことができ、また、一時的住まいや投資対象として捉えている人にとっては売却時に損をしないことになる。
「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」(59階建て、2009年竣工)は、そうした方向性に合致した先進事例と見ることができる。このタワマンでは、長期修繕計画を見直した結果、大幅な資金不足が生じることがわかり、2013年に修繕積立金月額を2.5倍に引き上げた。区分所有者の間で、適切な維持修繕によって資産価値を守り、ビンテージマンションを目指すとの意識合わせができたことなどが、大幅値上げに踏み切ることができた要因と考えられる。管理状態を資産価値に直結させるという意味では、今後は「マンション管理計画認定制度」や「マンション管理適正評価制度」が十分に機能するのかは一つのポイントになる。
このようにして長期間、資産価値を保つ取り組みが行われ、終末段階ではそのエリアの価値により再開発などの形で更新されていくシナリオを描くことができれば、これがタワマンが最大限活用され、終末期の公費負担も極力少なくできる道になると考えられる。その意味では、価値を保てるかどうかが疑わしいエリアでのタワマンが増えることは問題である。
これはタワマンを今後も住まいの形態として残すという前提での議論であるが、そもそもタワマンが、人口減少社会の中でも必要なのか、景観上の評価はどうなのか、またここで論じたような多くの問題を抱えていることなどを考慮すれば、筆者はこれ以上増やすことは望ましいとは考えていない。近年はそのように考える神戸市のような自治体も出てきた。
また、供給するにしても、分譲ではなく賃貸であれば、土地オーナーの判断により建設や維持更新、解体の判断がなされ、廃墟として放置されることもない。本来、この問題を考える場合には、タワマンの住まいとしての必要性や合理性まで考える必要がある。しかし現実に供給され続けており、それを取得する以上は、その物件の中古としての競争力を保つことを肝に据えれば、自分にとっても社会にとっても望ましい結果をもたらすことになる。
図 マンションの大規模修繕工事金額
(出所)国土交通省「マンション政策の現状と課題」社会資本整備審議会住宅宅地分科会第1回マンション政策小委員会配布資料、2019年10月18日
(注)国土交通省「平成29年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」による