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改正空対策特措法で問われる行政の本気度

空き家対策は新たなステージへ

改正空家対策特措法が6月14日に公布され、6ヵ月以内に施行されることになった。これにより、空き家の管理、除却、活用のすべてにわたって、これまでより積極的な対応が取られることになる。2015年に施行された空家対策特措法では、所有者の責務として適切な管理の努力がうたわれ、①倒壊等著しく危険となる恐れ、②著しく衛生上有害となる恐れ、③著しく景観を損なっている、④その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切、の4つの状態の空き家を特定空家と認定し、そうした状態を改善するための指導、勧告、命令、代執の手立てが整えられた。

特措法により、特定空家の除却が進むなど一定の成果はあったと考えられる。また、空き家活用促進のため、空き家バンクを設置する市区町村は8割を超えた。しかしこれまでの対応は、危険なものがあれば除却、使える可能性のあるものは流通を手助けするといった、最低限の個別対応に留まっていたとも考えられる。

今回の改正では、所有者の責務として、国・自治体の施策に協力する努力義務が追加されるとともに、特定空家に至る前の段階である、「管理不全空家」というカテゴリーが設けられ、より早期の対応が可能となった。

また、市区町村は「空家等活用促進区域」という、空き家を重点的に活用するエリアを定めることによって規制面でそのエリアの空き家を活用しやすくしたり、さらには、空き家の活用や管理に取り組むNPOや民間企業などを空家等管理活用支援法人として指定したりできるようになった。

市区町村の従来の対応が、空き家の状態がかなり悪化した段階での個別対応を行うのが精いっぱいだったとすれば、改正後はその前の段階から措置できるようになり、またエリア全体としての施策も講じやすくなり、さらには対策の推進役として市区町村のマンパワーや専門知識を補完するNPOなども活用しやすくなる。改正により、空き家対策は新たなステージに入ると言ってもよい。

管理不全空家への措置

管理不全空家という新たなカテゴリーが設けられる背景には、空き家のより一層の増加が見込まれる中では、周囲に著しい悪影響を及ぼす特定空家になることを待つことなく、早期に適切な管理を促すことが重要との考えがある。

具体的には市区町村長が、放置すれば特定空家になるおそれのある管理不全空家に対し、まずは管理指針に即した措置を指導する。管理指針は、今後国が告示する。指導しても状態が改善しない場合は勧告することができ、勧告を受けると当該空き家の敷地に対する固定資産税の住宅用地特例が解除される(更地並み課税で税額は最大6倍に)。これまでは特定空家に認定され、指導に従わず勧告になった場合に特例解除の措置が取られたが、これからは管理不全空家の段階で特例が解除される可能性が出てくる。

管理不全空家に該当する条件は、改正法施行までに国がガイドラインを示すことになっている。また、国が管理指針として定めることが想定される管理の方法は、①所有者が定期的に空き家の換気、通水、庭木の伐採等を行う、②自ら管理できない場合は、空家等管理活用支援法人等に管理を委託するなどして空き家を適切に管理する、などである。

今回、管理不全空家のカテゴリーが設けられたことは、市区町村のより積極的な対応を促す可能性がある。市区町村にとっては、特定空家と認定する場合、将来的に代執行までを覚悟しなければならず、認定を躊躇する場合があるとの指摘は従来からあった。その意味で、特定空家認定のハードルが必要以上に高くなっていた可能性がある。一方で市区町村は、特定空家の前段階で条例に基づき指導しても、適切な管理を働きかけることのできる仕組みがなく、空き家所有者の反応が期待しにくいという悩みがあった。

固定資産税の特例解除というペナルティは、所有者に早期から適正管理を意識させるとともに、管理コスト増と除却した場合の税負担増を考慮した上での、所有者の早期売却を促す可能性がある。しかし売却できるのは需要がある場合で、需要がない地域では売却は難しい。その場合、所有者に除却を促すため、除却した場合の固定資産税の増分を一定期間軽減する措置を取っている例もある。需要がなく更地にしても持ち続けなければならないという前提では、むしろ税負担軽減というインセンティブが必要であり、こうした措置を取るケースは、今後増えていくのではないか。

特定空き家に対する措置の円滑化

一方、今回の改正では、特定空家への措置を円滑化する措置も設けられた。その一つは、災害など緊急時の代執行制度の創設である。これまでは特定空家の代執行を行うためには、緊急時でも命令までを経る必要があり、迅速な対応が困難だった。もう一つは、代執行費用の徴収の円滑化である。通常の代執行では行政代執行法の定める強制徴収が可能であったが、略式代執行(所有者不明時の代執行)の場合は後に所有者が判明した場合でも、裁判所の確定判決を経ないと徴収できないという問題があった。今後はこの場合でも強制徴収できるようになる。

このほか、所有者不明などの場合の財産管理人(相続財産管理人、不在者財産管理人、所有者不明建物管理人、管理不全建物管理人、管理不全土地管理人)の選任請求権が、市区町村に与えられることになった。財産管理人は民法上、利害関係人に選任請求権があるが、市区町村がどのような場合に請求できるかが明確ではないという問題があった。

改正空家対策特措法ではこうした実務上の課題も解決された。今後は、前述の新たなツールも使った、各市区町村の空き家対策のより一層の本気度が問われていくことになる。

 

空き家の状態と措置

(出所)国土交通省

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