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マンションにおける空き家問題─放棄ルールの必要性─

マンションの空き家問題

マンションは一般に、築40年を越えると、空室化、賃貸化が目立つようになる。マンションは老朽化していくとともに、区分所有者も高齢化する「二つの老い」が進み、管理機能が低下していく。空室化、賃貸化により区分所有者が住まない状態になると、管理機能はより一層低下しやすくなると考えられる。また、老朽化の進展とともに相続が進み、区分所有者が誰であるかを特定しにくい物件も出てくる。築40年以上の物件は2023年末時点で137万戸であるが、20年後(2043年末)には3.4倍に達し(国土交通省調べ)、こうした問題が今後さらに広がりを見せていくことは確実である。

最新の国土交通省「マンション総合調査(2023年度)」によれば、世帯主の年齢は70歳以上が25.9%と、10年前に比べ7.0ポイント上昇した。築40年以上のマンションでは、70歳以上の割合は55.9%に達する。空室戸数(3ヵ月以上)の割合を見ると、20%超のマンションの割合は全体で0.8%であったが、築40年以上ではこの割合は2.9%と高かった。所有者が所在不明または連絡先不通の住戸があるマンションの割合は、全体の3.3%であった。

所在不明・連絡先不通物件が増えることの問題点としては、①管理費や修繕積立金が徴収できなくなること、②管理が行われないことで劣化が進んだり周囲に悪影響を及ぼしたりすること、③決議が困難になることなどがあげられる。つまりはマンション管理上の、様々な支障を来たすということである。

区分所有法の改正要綱案

マンションは区分所有者の合意によって管理を進めていかなければならないところ、所在等不明(=区分所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができない場合。例えば、相続人が全員相続放棄、必要な調査を尽くしたが所在がわからない等)の区分所有者の増加に伴う様々な困難に対処しやすくするため、法制審議会は今年1月、区分所有法の改正要綱案を示した。

管理の円滑化に関しては、所在等不明の区分所有者を集会決議の母数から除く仕組みが盛り込まれた。現行法では、そうした区分所有者がいた場合、反対したものと同じに扱われ、重要な決議に支障を来たす場合があるからである。

専有部分の区分所有者が所在等不明になっている場合は、現行法ではその専有部分を管理するために、「不在者財産管理制度」や「相続財産管理制度」が利用されているが、所在等不明の区分所有者の財産すべてを管理する必要があり、時間も費用もかかるという難点があった。これに対し、所在等不明の専有部分に特化して管理する仕組みが盛り込まれた(「所有者不明専有部分管理制度」)。

相続土地国庫帰属法の応用

これらはいずれも必要な措置と考えられ、マンションの専有部分だけを清算できる所有者不明専有部分管理人制度により、従来より時間や手間が省けることになる。

しかし、そもそも所在等不明となるような物件は、価値がないためにそうなってしまった可能性が高く、たとえ売れたとしても予納金や滞納分を賄うのに十分な値段に達しない場合も少なくないと考えられる。その場合、滞納分は新たな区分所有者が引き継がなければならなくなり、ますます買い手を見つけるのが難しくなる。

結局のところ、所在等不明となると、管理組合はその物件の処分に窮することになる。相続放棄には遺産すべての放棄が必要で、マンションだけを選択的に放棄できないが、今後、ほかにめぼしい遺産はないといったケースが増えれば、放棄が増加していく可能性がある。将来的には、市場価値のないマンションの大半が相続放棄されてしまうといった事態も起こりかねない。

相続放棄物件のその後の処理コストが嵩むことを考慮すれば、最初から放棄できるルールを定めておいた方が望ましいとの考え方に立つことも可能である。ここで参考になるのが、昨年4月から開始された相続土地国庫帰属制度である。相続した土地について、一定の要件を満たせば、負担金を支払った上で、国に引き取ってもらえる仕組みであるが、これをマンションの専有部分にも適用するという発想である。国に帰属させた後、物件と負担金を管理組合に移せるようにし、管理や処分を行っていくことが考えられる。

新たなルールを設けるメリットとしては、相続放棄のように一方的に放棄されるわけではなく、放棄される管理組合の側は負担金を得ることができ、その後の管理や処分費用に充てることができることがある。この仕組みでは、マンションの区分所有者は、いわば負担金支払いというマイナス価格で、管理組合に物件を引き取ってもらう形になる。

なお、ここまで述べてきたことは、マンションの管理組合が機能していることを前提にしてきたが、管理組合が機能していない場合は、放棄が増えた物件についてはその後の管理、処分を担う受け皿機関のようなものも必要になるかもしれない。ここで述べた案は一つの考え方に過ぎないが、今後、様々な方面からの議論が進められていくことを期待したい。

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