対症療法の空き家対策
空き家の最新調査が5年ぶりに発表され、2018年時点の空き家数は846万戸と、過去最高を記録した。ただ一方で、空き家対策としては、空家対策特別措置法(2015年2月施行)により、問題のある空き家の強制的取り壊しができるようになり、その効果も出ている。また、使える空き家については、そのごく一部にすぎないが、自治体が設置する空き家バンクや、最近では民間の仲介サイトを通じて、低価格で取り引きされるようになっている。しかし、これらは空き家対策としては対症療法に過ぎない。
今後、空き家を増えにくくする抜本的な対策としては、建築時点で長持ちする住宅を建て、それを次の世代が中古住宅として使い続ける、欧米型の市場に変えていく必要性がかねて主張されてきた。
欧米先進国では、住宅寿命(滅失住宅の平均築後経過年数=取り壊されたた住宅がその時点で築後何年経過していたかを示すもの)が60~80年と、日本の32年(2013年)の2~3倍となっている。また欧米では、新築と中古を合わせた全住宅取り引きのうち、中古の比率が70~90%と日本の14.7%(2013年)とはるかに高く、人々が普通買うのは中古住宅となっている。こうした住宅市場の下では空き家は増えにくく、日本よりも空き家率の水準は低くなっている。
普及道半ばの長期優良住宅
これまで寿命が短かった日本の住宅の長寿命化を目指して制定されたのが、「長期優良住宅普及促進法」(2009年6月施行)である。これにより、長期間にわたり良好な状態で使用できる住宅の建築や維持保全に関する計画を認定する仕組みが設けられた。
認定を受けるには、①劣化対策、②耐震性、③維持管理・更新の容易さ、④可変性、⑤バリアフリー性、⑥省エネルギー性、⑦居住環境、⑧住戸面積、⑨維持保全計画、の9つの基準をクリアすることが必要となる。認定を受けた住宅は、住宅ローン減税や固定資産税の軽減などの様々な優遇措置が受けられる。
具体的には、①については数世代にわたり住宅の構造躯体が使用できること、③については耐用年数が短い内装・設備の維持管理を容易に行えること、④についてはライフスタイルの変化に応じ、間取りの変更が容易に行えることなどの条件が設けられている。長持ちする構造躯体を前提に、内装や設備、間取りを必要に応じ変えていくことで、数世代にわたって住み続けられるようにするのが狙いである。
この仕組みが作られて以来、長期優良住宅は徐々に増えてきたが、2018年度時点でも長期優良住宅は戸建て新築住宅の25%に過ぎない。建築コストがかかる点がネックになっている。注文住宅で普及しても、建売住宅にまで普及させることは難しい。
大手ハウスメーカーなどでは、長期優良住宅を建築した上、適時に点検、維持修繕を行ってその履歴を残し、所有者が売却したいとの意向を持った時、積極的に仲介し、その後のリフォーム需要を取り込むなどの動きを進めている。こうした取り組みが広がっていけば、長持ちする住宅が中古物件として流通していくと考えられる。しかし今後、建築された長期優良住宅のどれほどが中古物件として流通していくかについては、現時点ではなお未知数である。
一方で、ローコスト住宅に対する需要は依然根強い。最近注目されているものの一つとして、株式会社クリエイト礼文(山形市)が供給する「ユニテハウス」がある。四角い箱型の家(ツーバイフォー工法、2階建て4LDKが標準)であるが、デザイン性が高く、本体価格が1,100万円と安いことが消費者に受け入れられている。供給する側にとっては、同じ形であるため資材費を安く抑えることができ、また、組み立ても容易で通常2週間程度の作業が2日程度で済むため、人件費も抑制できる。全国にフランチャイズ展開しており、年間900棟あまりの現在の実績を、将来的に5,000棟までに増やす計画である。
ローコスト住宅は一般に、何世代かにわたって使うことを目指すというよりは、一代限りでも良いとする考えで取得する場合が多いと思われる。長持ちする住宅を建て、それを次の世代が中古住宅として使い続けることで、空き家発生を抑制するという考え方とは相いれないものであるが、この路線を突き詰めていくともう一つの空き家を増えにくくする方向性が浮かび上がる。
解体やリサイクルのしやすさを予め考えるという発想
それは、建築する時点で、予め将来の解体のしやすさを考慮しておくというものである。一代限りの使用と割り切り、必要な機能は確保しつつも、簡素な造りにしておくことがこれに当たる。こうした考え方に基づいた住宅は、実際に供給されたことがある。かつての江戸の住宅で、江戸ではしばしば大火に見舞われたため、火災によって消失する可能性を考慮し、建築時にお金はかけず、また、時に延焼防止のために取り壊される可能性を考え、壊しやすい構造になっていた。
欧米型モデルの普及に一定の限界があるとすれば、一代限りで壊す前提の住宅供給モデルがあってもいいのではないか。さらに現代においては、使用が終わった後の資材のリサイクルのしやすさも予め考えておけばなおよい。将来の解体やリサイクルのしやすさを考慮したローコスト住宅が市場に登場すれば、受け入れられる余地はあると思われる。
現在、住宅を持ったことの末路として、子どもも引き継がず売るに売れない住宅を抱え、そればかりか危険な状態になった場合の責任を問われる時代となり、本当に所有したことが良かったのと自問せざるを得ないような状況も生じている。持つとしても一代限りの使用で、最後は解体やリサイクルがしやすくなっている住宅は、こうした問題への答えの一つになるものである。今後の住宅供給業者の取り組みを期待したい。